日本におけるレゲエに関する[偏見]について

第二に取り上げたいのは、当該文章で扱っている[黒人音楽]はR&Bなどのアメリカのそれだけでなく、ジャマイカのレゲエを含んでいることです。[黒人]で表しているのも同じくアメリカ人に限定してはいません。

さて、そこでm3さんが、まず最初に御指摘になっているのは['70年代後半]において[ディスコ]のブームが日本で起きたという事実です。[ディスコ]自体は広義に解釈可能ですが(ビー・ジーズ等の白人のそれもありますし)、おそらく、ここでm3さんが[黒人音楽]としての[ディスコ]と書いていらっしゃるのは[70年代後半]に日本でも流行したものと限定されていますから、当時、流行したBPMを一定に保つことにより長時間踊ることを可能にしたビートを持った主にアメリカの黒人によるダンスミュージックを指していると推察します。また後で例に出てくるジェームス・ブラウンにしてもアメリカの[黒人音楽]の一つです。

ですから私の時代的にも地理的にも内容的にも広い意味での[黒人音楽]に対する[偏見]ということに対して、限定された意味での[黒人音楽]への[偏見]の無さの例で反論されているわけで、私としては、それをもって十分な反論とは受け入れられません。
繰り返しになりますが、私が書いていたのは日本には[黒人に対する強い偏見]を持たない人が全く居なかったということではありませんし、日本の音楽が黒人音楽に全く影響を受けていなかったということでもありませんから。

さて前回質問いたしました。

  • 70年代末でも黒人文化を素直にあるいは憧れをもって受容する層は確実にいたにしても、その規模は今に比べれば格段に小さいんじゃないか?
  • 確かにディスコ・ミュージックのような欧米のメジャーな(つまりは多くの白人を含む)シーンでも脚光を浴びたものに関しては日本でも流行したにしても、レゲエなどの更にビートに変化のあるものについては、かなりマイナーなものだったんじゃないか?

の後者に関しては、7/9付けで

それに”レゲエ”にしたって”ボブ・マーリー”とかは当時からメジャーだったわけだし

とのみ御回答いただいていますが、これだけでは十分とは思えません。
私の[かなりマイナー]というのは言い過ぎだったかもしれませんが、レゲエ、スカなどについての日本における一般的な理解に関しては当時と比べれば現在の方が進んでいるのは明らかだと思います。
例えば1986年時点で渋谷陽一は『ロックは語れない』(新潮文庫)で次のように書いています。

 レゲエに対する最大の誤解は、あれが民俗音楽だと思われている事である。レゲエはジャマイカで伝統的に継承されている民俗音楽などではなく、ロックよりも新しいジャマイカの大衆音楽なのだ、と説明すると、たいていの人はびっくりする。だいたいロックより新しいのは当たり前で、レゲエは、アメリカの放送局から流れてくるロックなどに影響を受けて生まれた音楽スタイルなのである。
 どうも黒人音楽というとすぐにエスニックなものなのだと思い込んでしまう先入観が僕らにはあるようだ。同時に、黒人音楽を特殊視し、神格化してしまう傾向も持っている。レゲエに対する誤解ほどひどくはないにせよ、大なり小なり僕らには黒人音楽を等身大にみようとしない習慣がある(P72)。

後半も[黒人音楽]への自身の[偏見]を素直に書いているので、長く引用しました。
おそらく未だに民俗音楽だと考えている人はいるかもしれませんが、スカやレゲエの誕生の経緯を知っている人は増えているでしょう。
この点は、情報の不足による[誤解]=無知、無理解ということで仕方の無い部分であるかもしれませんが(これはレゲエのみならずR&B等にもいえることではあるでしょう)、[偏見]というのは、そういうところから生まれるものだと思います。