大澤信亮「コンプレックス・パーソンズ」(『重力02』所収)読了。
偽日記http://www008.upp.so-net.ne.jp/wildlife/nisenikki.htmlの6/5あたりから、で取り上げられていたので、良い機会と読んでみた。
僻目で見れば、柄谷行人と後藤明生が選考委員だったころの群像新人賞向き、という感じ。似たような作風だと阿部和重、奥泉光と言ったところか。
複雑なプロット、構成(実は同時に単純な構造の反復でもある、というとこだろうけど)については偽日記を参照していただくとして、他に気がついたところをメモ。
この小説のテーマ(?)の一つは「対話」、それの成立/不成立だと思う。
作中、ほとんどが通常のかぎ括弧を使ったダイアローグを使わずに書かれている。そして、この書き方が使用される時が、逆に「対話」の成立不可能性を露わにしてしまうパートになっている。
p.381〜6の「わたし」と「あの男=新館」の「対話=対決」とP.412〜23「わたし=由記子」と男の「対話=対決」。
ある種コミカルさを追求している場面もあるのだけどれも、どうも上手く行っていない。阿部和重なら、もっと悲喜劇的に滑稽に描写してみせるだろうと風に思えてしまう。
(おそらくはフレイザーの『金枝篇』を意識した)「森/王殺し的なもの」という神話的なもの(後者は「自殺」というかたちで中上健次的にズラされている)が導入されているのだけれど、それに対するアプローチが中途半端に感じられる。こちらは奥泉光なら、もっと多重的に分厚い描写で展開するんじゃないか。
ただ非常に面白く読めたことは事実で、十分な加筆を経て再発表されることを期待したい。